COLUMN

いいちこ


スペック

【生産地】 大分県宇佐市

【生産者】 三和酒類

いいちこの発展

新しい麦焼酎の誕生


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いいちこは、日本で最も有名で、最も売れている焼酎です。
米ではなく麦を使った麦焼酎で、透明感と清涼な薫香が特徴です。


かつての麦焼酎は、濁りと匂いがきつく、一般には敬遠されがちのものでした。
大麦麹を使い、低温発酵させ減圧蒸留と常圧蒸留を駆使してこの問題を解決したのがいいちこです。

麦焼酎を一新したものである、ということから「新本格焼酎」を謳い、それまでの焼酎とは別のものとして売り出しました。

 

1979年の発売当初から、当時の焼酎の流行を背景に好調な売り上げを上げていたいいちこ。
しかし7年後の1986年、一つの転換期が訪れました。
法律で焼酎乙類の原料表示が義務付けられ、味付けに砂糖を使用していた当時の多くの焼酎が、使用を続行するかについての選択を迫られました。
砂糖が使われているという事実は、消費者の印象を悪化させます。
そして、いいちこもまた砂糖を使用していました。

 

砂糖を使わなくてもうまみの豊富な原酒を早急に開発すること、この難関に答えを出したのが、全量を麹のみで仕込む全麹造りでした。

手間やコストはかかるものの、うまさには代えられないと全麹原酒を使用し、1989年には砂糖をまったく使わない製法にリニューアルしました。



世界第三位の蒸留酒メーカーとなるまで

いいちこを造っているのは、大分県宇佐市の三和酒類。
1958年に地元の蔵元3社、翌年にもう1社が合併して出来た会社です。
当時の蔵元は、冬場に醸造を行って酒を売れば生活が成り立っていました。
しかし、大手の酒造会社が日本酒市場を席巻しつつあり、そのような商売は成り立たなくなりつつありました。
この波が九州まで達したとき、元々は日本酒を造っていた三和酒類も正面対決を避けるために、焼酎の製造と販売を行います。
三和酒類にとって、日本酒にとって格下と見なされていた焼酎を造ることは、苦渋の選択でした。

 

いくつかの焼酎が発売された後、新たな麦焼酎として1979年に誕生したのがいいちこでした。
いいちこは極めて大きな人気を呼んだため、発売前までは従業員8名、売上高3億円の会社だった三和酒類は、それから30年で従業員300名以上、売上高500億円を超えるまで拡大しました。

これは、本格焼酎メーカーとして日本では最大です。

日田蒸留所での生産

いいちこは、乙類焼酎です。
焼酎は甲類と乙類があり、甲類は何度も蒸留してアルコールを取り出しますが、乙類は1度だけ蒸留します。
このため、麦の香りの残る風味となっています。

 

いいちこが造られているのは、大分県宇佐市の本社工場と日田市にある日田蒸留所。
この2箇所の蒸留所で、一日あたり一升瓶換算で約20万本分もの焼酎を出荷しています。
日田は水の豊富な盆地であり、朝夕には霧が発生しやすい特徴があります。
こうした気象条件は、「みどり宵」の房の露酒造のある球磨盆地と同じく、良い焼酎を造るにあたり欠かせない要素です。

いいちこの味わい

大分方言「いいちこ」

「いいちこ」という名称は、大分の方言に由来します。
「良い」に強調表現である「〜ちこ」を加えて「いいちこ」となります。
この命名は、いいちこの販売に際して、宣伝も兼ねて地元紙で公募して決めたものです。

 

また、いいちこの愛称「下町のナポレオン」という言葉もこの公募によるものです。
「ナポレオン」はブランデーの最上級の等級で、別名「XOクラス」。
焼酎が蒸留酒という意味でブランデーやウォッカにも劣らないことをアピールする、上手な表現です。

風景の中の思想

いいちこを語る上で欠かせないのが、宣伝に使われているポスター。
今ではJRをはじめ私鉄と地下鉄に出稿しており、電車に乗るといつもどこかで見かけることになります。
ポスターの基本的な構図は、雄大な自然や懐かしさのある風景の写真と詩的な一節、そしてさりげなく写りこんでいるいいちこの瓶。
とても美しく、印象に残ります。

 

あのポスターの製作者は、デザイナーの河北秀也氏。
1984年、36歳の時に制作を請け負って以来、四半世紀以上にわたって毎月1作品を作っています。
ポスター中心の広告戦略は、当時の三和酒類の予算の都合によるものですが、そうした事情も大手とは違う洗練された広告イメージの創出に寄与しました。
三和酒類は、今でも宣伝担当の部署を置かずに、河北氏に広告宣伝を一任しています。
現在では、2005年に東京藝術大学の美術館で、2010年には福岡で「iichiko design展」が開かれるなど、一連のポスターは芸術作品として高く評価されるに至っています。

 

ポスターは日本的な自然美を写したものも多いですが、実は撮影地は全て海外です。
河北氏曰く、日本では地方でも本当に美しい情景が残っていないから、とのこと。
日本文化である焼酎の広告として日本人に郷愁を惹起させるあの写真群が、全て外国の風景であることは、ある意味で現代日本のありようを浮き彫りにしているようです。


透明な滲み

いいちこは、度数としては30度、25度、20度のものがあります。
特別版としては、熟成期間を長くした「スペシャル」、麦麹のみを使用した「フラスコボトル」、新品種の麦を用いた「西の星」などがあります。
そして「スペシャル」や「パーソン」、「フラスコボトル」などのボトルデザインも広告担当の河北氏がデザインしており、ガラスのシンプルな美しさが際立ちます。

 

MIDORIお勧めのいいちこは、「フラスコボトル」。
前述の砂糖を使わない焼酎の開発によって誕生した全麹原酒を、100%使用した全麹焼酎です。
原酒は平成元年、「フラスコボトル」は平成10年に誕生しました。
澄んだ香り、ゆたかなコクと深みが特徴で、いいちこの頂点に立つ麦焼酎です。
オン・ザ・ロックや水割り、冬にはお湯割りで、極められた味わいをお楽しみください。


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